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第55話 王太子府、再教育初日

last update publish date: 2026-10-01 21:50:16

王太子府の扉は、以前と同じ場所にあった。

 同じ廊下。

 同じ紋章。

 同じ金具。

 同じ磨き上げられた床。

 けれど、ユリウスにとっては、まるで知らない部屋の入口のように見えた。

 かつて彼は、この扉をほとんど意識せずに開けていた。

 朝になれば王太子府へ入り、書類が机に積まれ、側近たちが予定を告げ、必要なものには印を押す。難しいところはダリウスが整え、耳障りのよい説明を添え、ユリウスはそれを「信頼」と呼んで受け取っていた。

 信頼。

 便利な言葉だった。

 任せることと、見ないことの境目を曖昧にしてくれる。

 ダリウスが去った王太子府は、妙に広かった。

 家具が減ったわけではない。

 人がいなくなったわけでもない。

 それでも、空気の一部が抜けたように感じる。

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